carrés ouvertsについて

MustAttackの日記「ワーテルロー戦の親衛隊の方陣について」にて
nagunaguさんがcarrés ouvertsについて質問されていたので調べてみた。

結論から言うと「carrés ouvertsを明確に説明した資料は見たらない」。
しかし、自分なりに推測した結果を以下に示す。

1.carrés ouvertsとは
  下図右側の開放型の方陣である。
(1)通常は1ケ大隊(標準の8ケ中隊構成で説明する)が縦隊(下図左側)で移動し、
   敵騎兵の突撃が予想される場合は下図中央の方陣を組む。これは全方向の
   攻撃に対応できるが、移動できない防御隊形である(騎兵との戦いで移動は無謀)。

(2)開放型の方陣は黒塗り矢印方向に移動できるが開放している方向(下図では下側)には無防備であり、
   左右の側面は敵が来たら兵士の向きを通常の方陣と同じ向きに変える(90度変更して灰色矢印方向)。
   側面から敵が来ないと分かれば、その方向を警戒している部隊は縦隊と同じ隊形に隊形変更する。
   万一後方から敵が来れば、第7,8中隊が通常の方陣と同じ隊形に変更する。

2.各中隊の隊形
  下図黒塗り矢印方向に移動移動する場合に、通常は下図の3列隊形を組む。
  しかし、側衛の任務を行う場合は同じ隊形でも移動方向は90度変更した向きに進む。
  下図の場合は大隊の左側面を警戒するので、この隊形のまま右方向に移動する。
  左から敵が来たら、その場で兵士を左90度向きに変えて通常と同じ隊形で交戦する。

3.ワーテルローの終盤戦況図
  Waterloo 1815: The Birth of Modern Europe (Campaign)のp78、79から引用。
  下図丸枠内が親衛隊の攻撃を示す。
  上記資料のp76にhollow square(carrés ouvertsの事)で攻撃が行われたとPetit将軍が主張していると記載されている。
  しかし、Petit准将は擲弾兵第1連隊の指揮官(2番目の図下線部参照)で、実際の攻撃に参加していない。
  下図の説明では攻撃は擲弾兵第3,4連隊と猟兵第3,4連隊が行った。
  攻撃部隊を見送る際にhollow squareを見たと言っているようである。
  下図の戦況図を見ると、48(猟兵第4連隊)だけが側面を気にする必要があると思われる。
  他の3ケ大隊は左右に味方がいるので、わざわざ開放型方陣を組む必要があるとは思えない。

Waterloo The Armies of 1815 (Orders of Battle)のp15から引用
4.参考資料
  ・Manual D’infanterie 1808のp126から131に方陣の記載があるが、carrés ouvertsの記述は見当たらない。
  ・Napoleon’s Infantry Handbookの165項に方陣の記載があるが、hollow squaresの記述は見当たらない。

5.その他
  フランス軍歩兵の隊形については下図のWEBページに纏めてある。
  ・戦列歩兵大隊・中隊の隊形
  ・歩兵の方陣隊形
  ・歩兵の散開隊形

<個人的な感想>
carrés ouvertsを実際の戦場で行うのは難しく、熟練した兵士だけが可能と思われるので、
一般的な方陣の説明からは漏れると思われる。

そもそも、carrés ouvertsのような隊形が必要な状況が想像できない・・・。
La Garde Avancのデザイナーが言うようにイギリス軍の騎兵突撃を恐れた?
直近のフランス軍騎兵突撃でイギリス軍騎兵が対抗できなかったので
脅威でないのはナポレオンもネイも分かっていたはず。それなのに騎兵突撃を恐れて
carrés ouvertsを全大隊に許したとは思えない・・・。
とちらも強気の将軍なので万一を恐れたcarrés ouverts隊形で攻撃するよりも
攻撃力のより大きな縦隊で攻撃させるほうが成功率が高いと判断したはず。
更に言えば、騎兵突撃が予想されるのに、わざわざ精鋭歩兵を向かわせるとは思えない。