総裁政府はクーデターにより権力を握っているが、次の問題があり苦しい立場にあった。
1)憲法により行政権と立法権が独立しており、総裁政府と議会は一体化していない。
2)戦争の状況が次のように良くない。
A)イタリア、スイスではフランス軍が後退を続けている。
B)新たに徴兵しているが、国民の戦う熱意が冷めてきている為になかなか集まらない。
そこで、総裁の1人バラスは、戦況を変える為に陸軍大臣をミレ・ド・ミュロー(シェレールの後任)
からベルナドットに代えることにした。
(政治上の立場を別にするならカルノーが適任だが、フリュクティドールのクーデターの際に国外に
亡命中で不在な事もあった。)
しかし、もう1人の総裁シエイエスは、次のように反対した。
A)陸軍大臣には、軍人でなく文民が良い。彼の立場は中立であり、最近になって愛国者になった。
B)典型的なガスコン人で、良い王様アンリ4世のように嘘つきである(*1)。
(*1)ブルボン王朝初代のアンリ4世はガスコーニュ地方のポーの生まれで、ベルナドットも同じ。
ガスコン人は、熱血・勇敢であるが、冷静・狡猾な面も持ち合わせているとのこと。
バラスは、次のように賛成する理由を述べている。
A)将軍達は不満に思っており、兵士達はボロボロで落ち込んでいる。
必要な人材は、軍から信頼されて人物・軍功とも名声のある軍人である。それはベルナドットである。
B)彼は一兵卒から将軍にまで昇進し、有能な纏め者であり、真っ直ぐで見識のある管理者である。
もう1人の総裁ゴイエは、ジョセフとルシアンのボナパルト兄弟(*2)からベルナドットを推薦され、
以下のように賛成した。
A)フランスが置かれている嘆かわしい状況では、陸軍大臣には軍の士気を向上させ、新しくやる気を
起こさせる人物が必要である。ベルナドット将軍は、その任務に最適である。
(*2)この時期、2人とも下院にあたる五百人会の議員を務めて政治活動をしていた。
最終的に、7月2日付けでベルナドットは陸軍大臣に就任した。
<個人的な感想>
バラスのベルナドットに対する評価が高いのは変わっていない。戦場での能力は立証済で
あるが、軍政のような官僚を使い他の大臣などと調整するような立場は初めてである。
更に前回のクーデターで断られたにも関わらず、重要な職に任命するのは、相当気に入っている
ように思える。
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